日本語と漢字(2):夜間中学に学ぶ

 先の日本語と漢字(2)の断章で、漢字の役割について紹介したが、ここではさらに二つ書いてみたい。

一つは漢字が創る視覚的なリズムである。日本語は膠着語という(ちょっと難しい?)言語に分類される。例えば、私「は」とか、あれ「を」とか助詞がほとんどの場合くっつく(膠着する)。外国にルーツを持つ生徒さんが、苦労するのはどこで発音を区切ればよいか(つまりリズムを作る)が分かりにくい。日本語には句読点という区切りを明確にする記号はあるが、それだけでは十分でない。日本語は英文と比べるとすぐに分かるが、だらだらと続く。英語は視覚的に単語ごとに切れている。むしろ実際の英会話では単語同士が発音を繋げようとさえする。日本語の場合と完全に逆である。このことは日本人が英語を学習するとき、音が聞き取りにくいという困難を生じる。

 日本語の文章は漢字とかな交じり文であって、概ね漢字(熟語)が出てきた後には助詞が膠着する傾向が強く表れる。そしてくっついた助詞の後でブレスを入れると落ち着いたリズムができる。音楽のブレスと同じ機能と言ってもいい。句読点が休符なら、ブレスは一段下のレベルでのリズム感を作ると言えよう。

 言葉は発語が最初に生まれたと考えられている。言葉にはリズムが内在している。もし日本語の文章が句読点もなく、ひらかなが切れ目なく延々と続く文章を読むとしたら、native日本人でも難しい。ところが漢字が混じると、自然と視覚的リズムが出てくる。それは上にのべた理由からだと考えている。現在では「読む」という行為は黙読がほとんどである。しかし江戸時代ころまでは読むことは声に出して読むことであった。視覚による認識が音声(発語)のリズムに直結すると言えよう。言葉は母語と言われるように、母親の赤子への呼びかけから、言葉を獲得するプロセスが始まる。文法は後付けである。夜間中学に限らず、もっと声に出して読む訓練を積ませるのがよいと思うのである。

 もう一つは、上にのべた内容と関連するのではないかと思うのであるが、漢字の意味の圧縮率である。ここで圧縮率というのは、英語を日本語に訳すると、ほとんどの場合、日本語の分量(長さと言ってもよかもしれないが)が英語のそれより少なくてすむ。これは翻訳経験者ならだれでも分かっていることで、翻訳する場合、英語1単語は日本語の2.7文字分(通常の漢字交じりの日本語として)に相当するという換算レートを用いる。ここで英語1単語はアルファベット文字で4.7~5.0文字を要する。つまり、日本語2.7文字分の単語=英語の4.7文字分の単語、と統計的に言えるのである。

 日本語の文章は文字列と意味から見て、英語より圧縮率が高い(つまり冗長度が少ない)と言える。このことは日本語がハイコンテクストの言語であることを考えれば、さらに日本語の難しさを加速するように働くのであろう。

 夜間中学で教えていると日本語の性格まで気づかされるのである。

Previous
Previous

日本語と漢字(3):夜間中学に学ぶ

Next
Next

日本語と漢字(1):夜間中学に学ぶ