鳥と空想に遊ぶ(1):大阪市立自然博物館「鳥」特別展
「一生分の鳥に出会える」、なんて素敵な誘いのキャッチフレーズである事か。家内は、家の前の雑木林を飛び交っている鳥の影を観るのが「幸せタイム」というタイプである。私と言えば、そんな風景を見ながら、ベランダでコーヒーをすするのが「幸せのひと時」である。二人は似ているようであるが、家内はいつまでも観飽きることがなく、私はコーヒータイムが過ぎれば次の行動に移る。とは言え、大阪市立自然博物館(長居公園にある)の宣伝文句につられて、二人で行ってみることになった。
この特別展の目玉は「ゲノム解析」によって、従来の鳥の系統が書き換えられている、という点にある。家内に「ゲノム」とは何ぞや?と問われたが、「一言で言うと遺伝子情報である」と深くは語らず、博物館に入場する。最初に飛び込んできたのは「絶滅」と書かれたパネルであった。絶滅の理由は大きく分けて数種類のパタンに分けられるらしい。近現代になっての一番か、二番の原因は人為的なものである。羽毛をむしったり、焼き鳥にしたり、である。次は長い地球史のうちに生じた大きな気候変動や、地殻変動など環境の激変(と言っても数日間や数年程度ではなのだけど)であるという。迷子になった小惑星が地球にぶつかって、巻き上げられた塵芥が太陽の光を遮り、暗く寒く暗い時期が続いたため、という仮説もある。これまで地球の生命は5回もの絶滅の危機があったという。6回目はかならずや人類も含まれるだろう(人類にとって不幸だが、他の生命にとっては福音かもしれない)。
壮大な地球史に想いを馳せる間もなく、展示はいろいろな系統の鳥のはく製、説明パネル、映像がこれでもか、というほど並べてある。どれも見入っていると時間を忘れる。入場案内では17時で終了であるが、最終入場は16時30分であると書かれている。わずか30分でこれを全部見ろと言うのは無茶であるが、そういう切羽詰まった人もいるのだろうと余計なことを思いながら、痛む足腰をいたわりつつ次のコーナーへ進んでいく。鳥は飛ぶために体をいろいろ進化させてきて、その種類(亜種を含めて)が豊富であることを改めて知る。私どものように鳥見(バーダー)ではない素人にはあふれる過ぎる情報と展示であった。
鳥の先祖は恐竜であった、という説は若いころから知っていた。不思議に思うのは、恐竜はどいつもこいつも現代の生き物よりはるかに馬鹿デカかった(と一般に描かれる)。その子孫の多くがなぜ今日では人類の身長、体積と比べても、それほど違和感がないほど小型化したか?ということである。
昔は進化とは進歩と同義であった。進化論の前には、人間は神から特別な地位を与えられたものとされた時代があった。私が大学に入ったころ、生物はどうしてあれほど合目的に創られているのか?ということが大きな話題になっていた。私の恩師(生物物理学)である大沢文雄先生の「ゆらぎ」という概念が、遺伝にという世代を繋ぐプロセスにとりこまれた。その概念を用いると、進化とは進歩を意味するのではなく、生まれてくる次世代の形質のばらつき(ゆらぎ)から生まれる多様性の中で、環境に適したものだけが優勢に生き残っていく、という説明になる。その説明はとても納得できるのだが、エネルギーを無駄に消費するバカでかい恐竜が跋扈する長い時代が何億年も続いてきたことの疑問には答えてくれそうにない。
恐竜の体の構造が、あの巨体を支えるのに適したものであったなどの説明があるが、私にはどうも後付けの解釈に思えてならない。鳥に限って考えると、鳥の生活環境は空中である、と言い切ってもいいだろう(ペンギンのように何事にも例外はある)。空中を超速で飛ぶ、ゆったりと滑空しながら飛ぶ、長距離をえいこらさ、と飛ぶ、それぞれ鳥の行動スタイルと必要性というものがあって、それぞれに適した体の特徴が備わったのであろう。そう考えると特別展の展示パネルの解説も十分納得できる。しかし体重が何十トンもあって、しかも二本足歩行したものまでいた、という恐竜に生命体の(進化の)方向性を定めるきっかけとなったものは何だったのか、という謎は解かれていない。
生命にはエネルギーとエントロピーのパランスが不可欠である。エネルギーもエントロピーも地球史から見れば今よりずっと大きく伸縮し、不均等に変動し分布していた時代があったのではないか。そういう時代に最も適した生物発展のたまたまの方向性が、恐竜であったと素人の私は空想するのである(そういう時代が今後もあり得るかもしれない)。
サイエンスはある事象がどういう原理であるかということは明らかにすることは出来るが、それがなぜ、生じたかという疑問には答えられないという。そんな愚問を反芻しながら、焼き鳥にされそうになった鳥が突然先祖返りして目の前で恐竜にもどったら、気が遠くなりそうだった。情報量に圧倒され、ほうほうの体で解放された出口では、グッズコーナーで恐竜のぬいぐるみが売られていた。
鳥の外装(羽毛)をこのように展開して考えたことはなかった。新鮮な解剖図である。