熱中症を解剖する

熱から暑さそして熱中症へ

20250805

 猛暑である。テレビは「明日も危険な暑さです、外出は控えてクーラーを適切に使い、時間を決めて水をこまめにとり、塩分を補給してください」と壊れたテープレコーダの如くである。さても熱中症の危険性を論じる前に熱とは何か、暑さは物理的に熱と何が違うのか、最終的に何がどうなったら熱中症を防ぐことができるのか、順序だてて考えてみる必要があるのではないかと思う。

プロローグ

 この夏に福井の県立博物館を車で訪れたのだが、事前の心配事はJackery電源を車内に積んでいたことである(車中泊には必須のアイテムである)。安物のリチウム電源(バッテリー)は周囲の温度が高くなると最悪発火することがあるという(Jackeryは決して安物ではないのだが年寄りは心配する)。まずは予約した7月23日13時30分前後の博物館周辺の天気と気温を調べ、直射日光が駐車2時間という仮定で車の温度がどうなるかを調べた。これらはAI(人工知能Perplexity)に予測させたのであるが、結果は何らかの対処が必要である、とのご宣託であった。リチウム電源も熱中症になるのである。

 小学校の理科の知識と経験を持ち出すのであるが、熱が伝わるときは何もしなければ温度の高いところから低いところに移動していく本質がある。そのプロセスにエネルギーを投入しなければ、その逆の流れは生じない(エアコンはその装置である)。高校の知識では輻射熱というものをならった(はずだが)。地球は太陽から熱をいただいているが、真空の中を太陽の光が飛んできて地球を暖める、それが輻射(熱)である。大学で習った知識では光(や電波。実は同じもの)が照射された物体の分子、原子を振動させる。つまりある物体の分子や原子の振動そのものが熱である(このあたりになると家内の理解は???となる)。

車内温度はなぜ高温になる?

 さて、駐車していた車が直射日光にさらされると車体全体の温度が上がるのは当然として、車内の空気の温度も必然的に上がる。外気温が例えば33度Cでも車体の温度は60~70度Cぐらいになる。車体全体が炎天下の輻射熱で熱せられ続けられているからである。そのため逃げ場がない車内の空気は十数分で外気温をはるかに超えて上昇する。小さな子供を、ちょっとの間だからと言って車内に取り残して大ごとになるのは、親が外気温を基準に判断するためであって、車内がなぜ外気温より高温化するかが周知されていない。そしてどのくらい高温になると人体がどうなるのかもよく理解されていない。こした理解には難しいことは要らない。啓発だけが必要である。テレビのまいどな注意は啓発ではない。

 実は空気は優れた断熱素材であることは冬の防寒を考えればよくわかる。重ね着することは空気の層を何枚も重ねることと同義である。しかしここに誤解が潜む余地がある。車体も社内の温度も外気温以上にはならないのでは、という誤解である。断熱材は熱の移動を生じさせにくくするので、一度温まってしまえば容易に下がらない(放熱という)。容易に下がらないから蓄熱していく。蓄熱された物体に熱量が供給されればさらに温度が上がるのは明らかである。アプリに出てくる一日の気温の変化みれば分かるが、最高気温となるのは太陽が天中に来た時ではなく午後2時~3時がピークである。空気は温まりにくいが一旦温まれば、明け方になってようやく最低温度になるという遅れが生じる(夜中に放熱量が優勢になるからである)。夜眠りにつくときに寝苦しいのは昼間の熱が家全体にも布団にも蓄熱されている。それが人体の蓄熱状態を長引かせることになる。マスコミの流す情報に「(特に人体の)蓄熱」という概念と説明が入っていないのは大きな問題である。

蓄熱は熱中症への第一歩

 さて、いま述べたように人間の体も蓄熱するのだが、多少の温度変化には体温を一定に保つことができる、ということは大人であればだれでも知っている。その働きは汗である(犬は知らない。汗腺がないからである。犬は口を開けてハアハアと汗の代わりをする)。汗が蒸発するときに熱を持ち去る(気化熱として奪う)のである。しかし発汗による放熱=体温低下作用には限界がある。体は蓄熱体であるから、気温が一定以上となって体内に熱量が蓄積され続けると、まず温度上昇で脳がボヤっとしてくる。次いで循環不全や何やらややこしい生理的状態を経由し、最終的には多臓器不全(心臓、肝臓、腎臓など)で死亡に至る。これが熱中症による死亡である。塩分は汗として失われるナトリウムを補給しなければならない。ナトリウムは神経活動に必須の成分であるから発汗と共に頭がボヤっとくる。それは熱中症の初期症状か?と疑う必要がある。危険な状態に進行すると体内の深部の温度は40度Cを超え、42度まで行くとほとんどアウトであるという。

 高齢というリスク

 高齢者は熱中症のリスクが高い[1]。発汗として失った水分、塩分を補え、という体のサインであるのどの渇きも自覚しにくい。頭がボヤっとしても単なる疲れか、暑さでちょっと参ったぐらいにしか思わないという。高齢者の体組織の水分比率も若い時と比べて5%減少していることは、それだけ体が蓄熱しやすく、体全体の水分の予備タンクも少ないことになる。膀胱にたまった尿は既に体外から喪失した水分と考えるべきである(尿を飲まない限り再び血流には戻らない)。さらに高齢者世帯はエアコンをつけるにも電気代を惜しむ傾向がある。太陽光を付けた世帯ではそうでない世帯より熱中症のリスクが少ない、というデータがその裏付けとなっている。帰路、名古屋で立ち寄った義妹の旦那さんはマラソンのベテランである。その彼が最近出場したマラソンの直後、何か体調に違和感を覚えているうちに意識を失い、気がついたら病院であった。意識を失った瞬間は覚えてないという。

体感温度とは何か

 話を元に戻そう。太陽は熱の源であり、地球の気温を上げ、人体を含めた物体を温めて蓄熱を促すということを論じたが(ただ単に周知の事実を整理して説明しただけであるが)、人は暑さをどう感じるか、ということも重要である。ここで体感温度という経験的な温度を持ち出すことにする。体感温度は気温の他に湿度にも大きく影響される。湿度は相対湿度と絶対湿度があるが、要するに空気に気体(水蒸気)として溶け込むことができる水分量である。湿度が高ければ空気が吸収できる水分量は少なく、湿度が低ければ多い。だから湿度が高い時には汗の蒸発が少なく、体から奪われる熱量も少ないので「蒸し暑い」となる。蒸し暑いとは蓄熱に向かっている状態である。

 反対に空気の攪拌(対流)は快適性に影響する。扇風機は空気を攪拌して、空気の湿度を不均一にし、蒸発速度を速めるので涼しさを感じさせる。「エアコンや扇風機を適切に」というのには理に適っている。エアコンの除湿モードで湿度を下げ、なおかつ扇風機で自然に近い涼しさを作り出す。しかし気温と湿度は直接的に生理的影響を持っているが、快適性はちょっと別であるらしい。これは後で話すことにして、ここでは体感温度の話を続ける。

 体感温度は経験的な尺度と言ったが、実は体感温度を測る測定器WBGT=Wet Bulb Globe Temperature黒球四季熱中症指数計なるものが売られている。低価格のものから高級品、家庭用からプロ用まであるのだが、AIに尋ねると多少の誤差を許せば数千円の家庭用で十分だという。ということでJIS規格適合品をアマゾンから2500円で購入した(50%オフの商品を見つけたので即決した)。他の温湿度計と比較すると、気温で1度ぐらい、湿度で2~3%ぐらいの誤差範囲に収まっている。比較したどちらがより真の値に近いのかは分からないが、十分実用になりそうであった。ただ、測定器が安定するまで5~10分ぐらいかかるが、温度と湿度の両方を測って計算式に入れるのだから止むを得ないかもしれない。

 測定器の表示はWBGTの値(やはり「度C」表示である)として31.0以上は危険、28.0以上31.0未満は厳重警戒、25.0以上28.0未満は警戒、20.0以上25.0未満は注意でそれぞれ種類の異なる警告が鳴る(20未満はならない)。ちなみにこの文章を書いている時点でWBGT値25.0、気温29.9度、湿度58.3%で表示は「警戒」であるが、個人的にはそれなりに快適と感じている。私の体にはWBGTとして24台が最適かもしれない(それでも表示は「注意」となるが)。経験を考慮した要素が関数に入っているので、このくらいの個人差は許せるだろう。

用心はこまめ、対策対策は多面的に

 今回能登への旅は炎天下の走破であった。車窓を開放し、多少の冷房は効かせたうえで小さな扇風機を横に置き、濡れタオルを首にまいて運転したところ、6日間眠気をほとんど催さず快適で疲れも覚えなかった。むしろ体調は良くなった。我ながら一つ大発見である。帰ってからAIに尋ねると「首にぬれタオルを巻くことは体温調節を効率化し、熱中症予防やリフレッシュ、疲労回復などの生理的効果が科学的にも認められている一方で、冷やし過ぎ」には注意が必要、との回答であった。冷えたタオルが体温でぬるくなっても、タオルが濡れている間気化熱は続いているので、すぐに冷たいタオルと交換しなくてよいということであろう。

 快適性が良ければ熱中症のリスクはないと考えてよいか、AIにまたまた質問してみたところ、「体感温度が適正と感じていても、湿度が高い・活動量が多い・体調が悪いといった条件下では熱中症になるケースがある。特に高齢者や子供では本人の感覚に頼るのはリスクがある。熱中症予防のためには体感温度や快適さだけでなく、必ず温度計・湿度計やWBGT計で客観的な環境指標を確認し、適宜水分・塩分補給、休憩、エアコンや扇風機の併用などの総合対策が必要である」とのことであった。

 

耐暑能力を維持する

 ヒトに備わる能力は歳を取るとともに衰える。文明の利器に頼るようになるのは避けがたい。しかし免疫や自然治癒力と同じく自分自身の耐暑能力をできるだけ維持しようとすることもできよう。私は昔から夏が大好きで、じっとしていても汗がしたたり落ちるのが快感であった。風邪を引けば布団をかぶって熱いうどんや生姜湯をすすって、できるだけ我慢し、たっぷりの汗をかいて一気に熱を下げて治したものである。結婚したとき、夏こそ熱い鍋を囲むのだと言うと家内は呆れた。我が家には私が50歳近くまでエアコンはなかったが、家族ともどもみなよく耐えた。そんなことを思い出していたら無性にすき焼きが食べたくなった。汗をかこうとなじみの肉屋に開店を確かめるべく電話した。

エピローグ

 AIのご宣託どおりに、Jackery電源の停車中の熱中症対策は車の窓4か所を少し開けて風通しをする。もちろんフロントガラスには日よけカバーをする。小型の扇風機をJackery電源で動かす。とっておきはコンビニで買った1キロの氷袋をタオルに包み、氷嚢として電源の上に置いておくというものであった。ご宣託は確かであった。もちろん氷嚢はタオルでくるんだ上で、かつ電源の天板に生じる水滴はこまめにタオルでふき取るのである。

[1] 直近のデータによると、全国で熱中症による搬送者は、幼児以下0.6%、少年9%、成人(~65歳)33%、高齢者(65歳~)57%で人数としては合計約10万人である。高齢者が熱中症を発症する場所は屋外、屋内それぞれ50%である。高齢者は外出しなくとも熱中症の第一予備軍であるとこころえるべきである。

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